洪水は、大雨等により川の水が堤防を乗り越えたり、あるいは堤防が決壊したりして、河道以外のところへあふれて起こる災害です。
川を溢れた水は、住宅地や田畑を水浸しにするだけではなく、時には人家を水没させ、多くの犠牲を伴う恐ろしい災害です。
洪水は、被害を受けた場所の近くに降った雨に加え、上流からの雨が加わり、河川の堤防が持ちこたえられなくなって発生します。
洪水警報はどのような時に発表されるのか、指定河川洪水予報とは何か、洪水に関する情報を早めに知り、防災に役立てる方法について、説明します。
洪水警報と大雨警報(浸水害)の違い
洪水と浸水の違い
気象用語としての洪水は、河川の水位や流量が異常に増大することにより、平常の河道から河川敷内に水があふれること、及び、堤防等から河川敷の外側に水があふれることとされています。
即ち、洪水とは、河川の水が本来の川からあふれて周辺に流れ出すことを言います。
一方、浸水とは、降った雨の量が多くて、排水することができず、本来水のないところが水につかることを言います。
どちらも見た目は同じような現象ですが、洪水の原因となるのは川からあふれた水で、浸水の原因となるのは、その土地に降ってきた雨そのものです。
従って、洪水の時には、その場所に降った雨だけでなく、川の上流にどの程度雨が降るかが重要なポイントとなります。
極端な話ですが、上流に大雨が降ったことにより川が増水し、一滴も雨が降っていない下流で降水を起こすこともあります。
融雪期に高温で山中の雪が一度に融け、下流の川があふれる融雪洪水といった現象も実際に起こります。
洪水警報は大雨警報(浸水害)とどう違うか
先に述べたように、洪水は川の水が引き起こすものですので、洪水警報は川の水量・水位が基準となっています。
気象庁が出す洪水警報は、川の水位やそれを指数化したものなど、地域に応じていくつかの基準を設け、そのいずれかが基準に達した場合に発表しています。
一方、大雨警報(浸水害)は、その地域に降った雨がどれだけ流出せずに地表に残るかを示した表面雨量指数に基づいて、発表されています。
表面雨量指数は、基本的に直接その地域に降った雨をタンクモデルで計算し、指数化したものですので、上流の雨は関係しません。
川の水位が上がれば、それだけ雨が流出しにくくなり、浸水の可能性が高まるのですが、こうした要素による浸水は、洪水警報の発表基準に含まれます。
以上のことから、洪水警報はその地域を含む川の流域全体の雨量が関係するのに対し、大雨警報(浸水害)はその地域の雨量を基本に発表されると考えていいでしょう。
洪水警報の発表基準はどうなっているのか
流域雨量指数による基準
洪水警報を発表する基準にはいくつかあります。
まず、気象庁が独自で出している基準として、流域雨量指数があります。
これは、全国約20,000の河川を対象に、流域を1kmメッシュに分け、降った雨が河川に流れ出し、河川に沿って流れ下る量を求め、それを指数化したものです。
この指数を対象河川の警報発表基準と比較することにより、洪水警報として発表されています。
流域雨量計数の算出には、他の雨量関係の指数と同じように、タンクモデルが使われています。
雨は地上に降ると、一部は地表から流れ、また一部はいったん土の中にしみ込んだ後、表層や地下水として流れていきます。
これを穴の開いたタンクに水が蓄えられるモデルに当てはめ、どれだけの水量が溜まるか、どれだけの水量が河川へ流出するかを計算で導きます。
これが川に流れた時に、どれだけの時間をかけて下流に到達するかも計算し、ある時間のその地点の川の流量を指数化したものを流域雨量指数としているのです。
これを図示した気象庁の解説図は下記のとおりです。
複合基準
流域雨量指数による基準は、河川の流域の雨量をもとにしていますが、現実には、河川の増水により、降った雨が排水できず浸水することも多く見られます。
こうした浸水を内水氾濫(はんらん)とよんでいます。
このため、洪水注意報の発表基準には、流域雨量指数と浸水に関わる表面雨量指数の両方を加味した複合基準というのが設けられています。
例えば、市町村別の洪水警報の発表基準表で、「〇〇川(8,10)」という表記になっているものがそれです。
これは、〇〇川において、表面雨量指数が8以上で、流域雨量指数が10以上となった場合は、洪水警報の発表基準に到達しているということを示しています。
こうした基準を設けることにより、表面雨量指数だけで判断しづらい内水氾濫を早めに察知し、警報の発表につなげているのです。
指定河川洪水予報とは
指定河川とは何か
指定河川とは、河川の増水や氾濫などに対する水防活動の判断や住民の避難行動の参考となるように、気象庁が国土交通省または都道府県の機関と共同して、区間を決めて水位または流量を示した洪水の予報を行っている河川のことです。
現在、国土交通省が管理する109水系と、都道府県が管理する66水系について、洪水の予報が行われています。
気象庁のHPに示されている指定河川の地図はこちら。
これらの河川について、洪水の恐れがあるときには、気象庁と国土交通省または都道府県が共同して、指定河川洪水予報というものが発表されます。
指定河川洪水予報には、氾濫注意情報、氾濫警戒情報、氾濫危険情報、氾濫発生情報の4つがあり、河川名を付して「○○川氾濫注意情報」「△△川氾濫警戒情報」のように発表されます。
各レベルの予報内容については、下表をご覧ください。
指定河川洪水予報と気象庁の洪水警報の関係
指定河川においては、各河川に設けられた水位観測所ごとに、氾濫注意水位、避難判断水位、氾濫危険水位がそれぞれ定められています。
先の表に示したように、氾濫注意水位は洪水注意報に相当し、避難判断水位は洪水警報に相当します。
気象庁においては、基本的に流域雨量指数や複合基準をもとに洪水注意報・警報を発表していますが、同時にこうした指定河川洪水予報も判断材料に加えて、より迅速な注意報・警報の発表を行っています。
洪水から身を守るためには
洪水注意報は黄色(注意を高める)、洪水警報は赤色(高齢者等避難)のレベルとされています。
しかし、最近では線状降水帯による雨などのように、短時間で急激に河川の水位が上がることも少なくありません。
その土地の傾斜や排水の状況、洪水をもたらす川の状況により一概には言えませんが、ハザードマップで浸水の恐れを示されている地域では、早め早めの情報収集により、洪水に備えてください。
また、場合によっては、垂直避難(2階以上への避難)についても検討しておいてください。
まとめ
洪水警報について、その発表基準や指定河川洪水予報との関係、警報をどのように非難に結び付けるかについて、説明しました。
洪水の恐ろしいところは、その場所の雨がそれほどでなくても、上流の雨により思わぬ被害が出ることがあり、気が付いた時には手遅れということになりかねないところです。
梅雨時や台風時には、同じ流域の上流でどのくらい雨が降っているか、常に注意するようにし、洪水警報の発表にも気を配っておきましょう。
大雨警報の解説はこちら。
農業分野での大雨対策(洪水対策を含む)はこちらをご覧ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。