稲の病気で最もポピュラーで、最も恐ろしいものは「いもち病」です。
田植え前の苗の段階から、定植後の「葉いもち」、出穂後の「穂いもち」と、水稲の生育ステージの全段階で発生する厄介な病気です。
発生の少ないうちにしっかり防除しないと、出穂後の大きな被害につながります。
大阪平野のような西日本の平坦部では、夏季の発生は少なく、防除するケースは少ないのですが、西日本の中山間地や東北地方など、夜の気温が低いところでは、しっかり対応することが必要です。
いもち病とはどんな病害か、早期に防除するにはどうすればいいか。
いもち病について解説します。
いもち病とはどんな病気か
苗での感染と葉いもち
いもち病菌は糸状菌(カビなど)の一種です。
いもち病菌の菌糸や分生子(胞子)が被害わらやもみ等で越冬し、翌年種子からの伝染や空気伝染により発病します。
種子でいもち病に感染した稲は、立枯れを起こすほか、田植え前に病斑を作り、周りの苗に分生子をまき散らすことがあります。
田植えして以降は、苗からの持ち込みのほか、ほ場周辺からの分生子の飛散によって感染していきます。
葉に発生すると写真のような紡錘形の病斑となり、中心部が白く、周辺部が褐色となるのが特徴です(写真調整中)。
特に、病斑の中央部が灰緑色になっていれば、要注意です。
これを激発型病斑、あるいは「ずりこみいもち」と呼んでいますが、大量の分生子をまき散らす、たちの悪い病斑です。
葉いもちそのもので稲株全体が枯れるということはあまりないのですが、当然収量の減少につながりますし、葉いもちの多発している田では、次に述べる穂いもちの多発につながるので、早期防除が重要です。
なお、葉に発生したいもち病のことを葉いもちといい、穂に発生する穂いもちとは、同じ菌なのですが、区別して呼んでいます。
穂いもち
さて、いよいよ穂が出る稲にとって一番大事な時期になります。
御存じのように、稲穂は稲の株の中で少しずつ大きくなり、花が咲く直前に大きく稈をのばします。
この時、葉いもちが発生していると、伸びてきた稈に分生子が付着し、そこから感染します。
穂いもちは、感染する場所によって、穂首いもち、枝梗いもち、もみいもちなどいろいろありますが、基本的に病斑から上への養分の移動を阻害することで、穂を枯らせてしまいます。
穂いもちが多発すると、稲穂が白くなり、もみが太らず、ほとんど収量がないといった事態が生じます。
そうなってしまってからでは、完全に手遅れです。
いもち病と天気
いもち病発生の好適条件
いもち病菌の発生適温は20℃~25℃といわれていますが、それより低温でも発生は見られます。
逆に、高温はあまり好きではなく、近年の猛暑の条件下の西日本の平坦部では、あまり発生は見られません。
また、いもち病菌の分生子が稲の体内に侵入するためには、「ぬれ」が必要だといわれています。
「ぬれ」とは、稲の表面に水滴がついている状況のことで、この状態が長時間続くほど、いもち病に感染しやすいのです。
また、稲が軟弱であるほど、いもち病に感染しやすいことから、窒素過多の水田や、日照不足などがいもち病の発生を助長します。
いもち病の常発地という地域がありますが、地形や水などの条件が、いもち病の発生に適しているため、毎年のようにいもち病の被害を受けるのです。
こうしたところでは、早期防除を徹底すれば、被害を軽減することができますが、少し手を抜くと大きな被害となるので、十分な注意が必要です。
いもち病発生を助長する気象条件
これらのことから、いもち病菌は「冷夏が大好き」ということになります。
梅雨明けが遅れる、あるいは梅雨が明けないような条件下では、雨の日が多く(雨量は多くなくてもよい)、湿度が高く、日照が不足する、といったいもち病菌の大好きな条件が整っています。
実際、「平成のコメ騒動」を引き起こした平成5年(1983年)の全国的な大冷害の年には、大阪でも低温と長梅雨となり、いもち病が多発し、ずりこみ症状も平坦部で見られました(その年以外大阪の平坦部では見たことがない)。
もっと古い話としては、浅間山の噴火により大冷害となった「天明の大飢饉」においても、東北の冷害とともに、西日本ではいもち病が大発生したという記録があるようで、日照不足と低温が冷夏となり、いもち病の激発を呼んだものと考えられます。
いもち病を防ぐには
田植えまでの管理
植物の病害防除の基本は、病原菌を持ち込まないことと、早期に防除し周りに広がらないようにすることです。
いもち病は水稲の生育の各ステージで持ち込む可能性があるため、各ステージでしっかり対策を行うことが大切です。
まず、品種の選定ですが、いもち病の多発地では、抵抗性のある品種を栽培することで、被害をいくらかは軽減することができます。
ただ、稲の品種変更にあたっては、出荷先のJAと相談いただいたうえで実施してください(勝手に品種を変えるとJAが受け入れてくれない恐れがあります)。
次に、実際の作業について順を追って解説します。
まずは、しっかり塩水選をして健全なもみを選んだうえで、しっかり種子消毒を行うことが大切です。
種子消毒には化学農薬による方法、生物農薬による方法、温湯による方法などがありますが、それぞれの使用方法をしっかり守ってやるよう、心がけてください。
ここでルーズな管理をすると、いもち病だけでなく、他の病害虫の発生原因になることもありますので、しっかり管理しましょう。
次に、もみを育苗箱にまく際にも、厚まきにならないよう注意しましょう。
苗の段階でいもち病が発生した場合には、速やかに除去し、周辺への影響を最小限にします。
さて、いよいよ田植えとなりますが、田植え直前に育苗箱に箱施用剤を散布して栽培するのが一般的になっています。
西南暖地の平坦部などいもち病の懸念の少ないところでは、あえていもち病対策の箱施用剤を散布する必要はありませんが、いもち病の発生の恐れがあるところでは、いもち病に効果のある箱施用剤の散布をお勧めします。
田植え後の管理
先にも述べたように、いもち病は多湿の条件を好みますので、風通しが悪くなる密植をできるだけ避けることが大切です。
また、捕植用の置き苗は発生源となりやすいので、本田に放置しないよう気をつけましょう。
稲が軟弱気味に生長すると稲の抵抗力が落ちますので、窒素肥料のやりすぎに注意しましょう。
次に、防除方法ですが、いもち病に登録のある農薬は多数あるものの、そのほとんどが予防的効果があるものですので、できるだけ早期に防除することが大切です。
発生状況については、田んぼを見回っていただくことが最もいい方法ですが、他の作業が忙しく、なかなかじっくり観察できないこともあるでしょう。
そのような方は、各府県の病害虫防除所が重点的に巡回し、いもち病の発生情報を発信していますので、その情報にご注意ください。
各県の病害虫防除所へのリンク集はこちらです。
地域によっては、JAや市町村の情報提供もありますので、そちらも参考にしてください。
まとめ
稲にとって、大きな問題となるいもち病について、説明しました。
常発地と呼ばれる地域の皆さんには、特に梅雨から夏にかけての天候の推移や、気温、日照の動向が気になることと思います。
水稲栽培では、気温や日照をコントロールすることは難しいのですが、例えば、冷たい灌漑用水を直接田んぼに入れずに、「ぬるめ」を作るなどで、少しでも田んぼの温度を上げることができます。
とにかく、低温、長雨、日照不足がいもち病発生の原因ですので、お天気の状況を見ながら、早目の防除を心がけてください。
なお、害虫の代表であるトビイロウンカについては、こちらをご覧ください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。