西日本の水稲生産農家にとって、最もいやな害虫といえばトビイロウンカ(以下、「ウンカ」という)でしょう。
穂が出て間もなく収穫となる9月に大発生し、坪枯れを起こして大きく収量が落ちます。
爆発的に増殖するので、発生初期に防除しないと大きな被害となります。
でも、ウンカは日本で越冬ができません。
毎年、中国大陸から飛来することが知られています。
ウンカとはどんな害虫か、どこで発生するのか、どのように日本に飛来するのか、早期に防除する方法はあるか。
ウンカについて解説します。
トビイロウンカの飛来
トビイロウンカはこんな虫です。
トビイロウンカは古くから水稲の害虫として知られており、江戸時代の享保の大飢饉はトビイロウンカが原因だといわれています。
ところが、1960年代まで、ウンカの生態は不明で、国内で越冬しているのか、海外から飛来しているのか、よくわかっていませんでした。
1967年7月、潮岬沖に位置していた気象庁の定点観測船に、突然何万匹というウンカ(セジロウンカも含む)が飛来したのです。
これをきっかけに、先人たちの地道な調査の結果、東シナ海を渡ってウンカが九州をはじめとする西日本に飛来し、それがきっかけで秋の大発生につながることが分かったのです。
さらに、その後の調査で、こうしたウンカは梅雨前線や前線上の低気圧に向かって南西から吹く、下層ジェットと呼ばれる強風に乗ってやってくることが分かったのです。
このことは「ウンカ、海を渡る」という本にもなりました。
この記事についてはこちらのHPをもとに作成しています。
トビイロウンカはなぜ厄介か
トビイロウンカの生態
先ほど説明したように、ウンカは梅雨前線に伴う風に乗って、6月後半から7月前半にかけて日本に飛来します。
日本の水田に定着するとすぐ卵を産み、概ね30日ごとに世代を繰り返します。
この間に飛来したウンカ1頭が3,000頭に増えるといわれており、この爆発的な増殖が水稲に大きな被害をもたらすのです。
なぜ坪枯れが起こるのか
虫にはできるだけ集まろうとする種類と、できるだけバラバラに居ようとする種類があります。
トビイロウンカはできるだけ集まろうとするタイプの虫の代表格です。
従って、ある稲株に集まると、一斉にその稲株から汁を吸い、その稲株を枯らしてしまいます。
ある稲株が枯れると、隣の株を刈れるまで吸い尽くし、また隣の株へと移っていきます。
そうやってどんどん稲を枯らしていき、坪単位ぐらいのまとまりで稲を刈らせるので、坪枯れと呼ばれているのです。
トビイロウンカをどう防除するのか
飛来情報に気をつける
これまで述べてきたように、ウンカは梅雨前線に伴う下層ジェットに乗って飛来してきますので、いつ、どこに、どのぐらいの数飛来したかが、後の発生の消長につながります。
各都道府県には病害虫防除所という機関があって、各府県内を巡回し、飛来状況を調査しています。
特に九州各県は飛来が多いため、各県の病害虫防除所では6月以降頻繁に水田を巡回し、飛来状況について、発生予察情報という情報を発信しています。
こうした情報には、飛来数のほかに、今後想定される発生の状況や防除適期、防除薬剤などが記載されていることが多いです。
こうした発生予察情報は市町村やその県のJAとも共有されており、地域によっては市町村やJAのHPから情報をとることもできます。
全国各県の病害虫防除所のHPにつながるリンク集を農水省が作っていますので、ご活用ください。
農水省のリンク集はこちらです。
早期防除で防除適期を逃がさない
ウンカは株もとにいるので見つけにくい害虫なので、ついつい見逃してしまいます。
ただ、たいていの場合、田んぼの真ん中よりは、あぜ側の方に多くいます。
ふだんから株もとをよく観察しておきましょう。
できれば第2世代目の幼虫期にあたる8月後半から9月前半に防除できれば、9月後半からの第3世代(坪枯れを起こす世代)の発生が抑えられます。
当然のことですが、集落とか田んぼのまとまりごとに一斉に防除することで、より高い効果が期待できます。
また、粒剤や豆つぶ剤を散布するときは、5日間程度湛水状態を続けておくことが必要です。
稲刈りが近づくと、コンバインを入れるために、田に水を入れることが困難になります。
粒剤や豆つぶ剤を使って防除する場合は、特に早期防除を適期に行うよう、心がけてください。
まとめ
ウンカが梅雨前線に乗ってやってくること、飛来してからは急速に増殖し大きな被害を出すこと、被害を出さないためには早期防除に努めることが重要であること、以上3点をぜひとも覚えておいてください。
また、府県やJAが出す防除に関する情報に常に気をつけておくことも大切です。
以上の点に気をつけて、ウンカの被害が少しでも防げたら、幸いです。
梅雨前線や台風の大雨対策はこちらをご覧ください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。