自治体やJAなどの職員さんが、農家さんと話をするときに、よくお天気の話題になることがあります。
でも、「いいお天気ですね」とか、「雨が降りそうですね」以上の話になると、なかなか農家について行けません。
少しでもこうした人たちに気象のことを知ってほしいし、農家さんに「よく知ってるな」と思われてほしい。
そうした願いから、この一連の記事を作成しました。
一年かけてある農業団体の広報誌に連載した原稿を元に、三ヶ月ずつにまとめました。
7月~9月は積乱雲と台風に関する記事です。
ブログの他の記事と重複する内容もありますが、これだけを読んでも一通りの気象知識が身につくと思います。
ぜひ読んでください。
嵐を呼ぶ雲 積乱雲 ― 突然の雷雨と突風にご用心
夏を象徴する雲といえば、入道雲。
気象の世界では積乱雲と呼んでいます。
もくもくと空高く伸びていく姿は、雄大だと感じる人も多いでしょうが、天気の急変と危険な気象現象を起こす元凶です。
夏に積乱雲ができやすいのは?
夏になると強い日射によって、気温が上がります。
また、太平洋高気圧から噴き出す湿った南風が日本に吹き付けます。
こうした高温多湿の空気が山にぶつかるなどして上昇気流になると、高温の軽い空気はどんどん上昇して、上空十数キロに達する背の高い雲を作ります。
これが積乱雲です。
積乱雲は年中みられるのですが、八月から九月にかけては、地表の気温は依然として高いのに対し、上空には寒気が入ることが多くなり、積乱雲が発達しやすくなります。
強雨+雷+突風の三点セット
イラストをご覧ください。
積乱雲の中では上昇した水蒸気が急に冷やされ、氷の粒となって、重力の力で地面へ落ちてきます。
この氷の粒は落ちていく途中でどんどん成長し、そのまま降ると雹(ひょう)に、途中で融けると強雨となります。
また、この時発生する静電気が雷で、大変危険な現象です。
この降水の過程で、激しい下向きの空気の動きが起こり、地表に冷たい突風をもたらします。
竜巻やダウンバーストなどの激しい風も積乱雲が原因です。
積乱雲が発達した時には、強い雨と雷、突風だけでなく、雹や竜巻など危険な気象現象にも注意が必要です。
「大気が不安定」が積乱雲の合図
積乱雲の水平方向の大きさは十数キロで、寿命も約一時間までと、気象現象としては時間・空間規模が小さく、予測が困難です。
雷注意報が出ていれば、また、「大気が不安定」と天気予報で言っていれば、積乱雲が発生しやすい状況です。
雨雲の動きがわかるスマホアプリを使うと、1~2時間先までであれば、大体の予想はできます。
雷鳴が聞こえれば、積乱雲がすぐ近くに接近しています。
雷や突風で命を落とすこともあるので、野外での作業は休止して、直ちに頑丈な建物に避難しましょう。
台風を知り備える その1 ― 台風は強大な雲の渦
台風は強風、大雨、高潮など、多くの災害の原因となる気象現象です。
しかし、進路をある程度予想できるようになったことから、早目に備えることで被害を最小限に食い止めることができます。
2回にわたり、台風とその対策を解説します。
高温の海水が台風を育てる
日本に接近・上陸する台風の多くは、赤道のやや北の北緯10~25度の太平洋上で発生します。
この付近は海水温が高く、湿った上昇気流が発生しやすい条件にあります。
こうした上昇気流が積乱雲を作ると、その時に熱が放出され、そのエネルギーで新たな雲ができるという循環が起こり、台風はどんどん発達し、強い低気圧となります。
台風は地球の自転の影響で、反時計回りの渦となり、中心付近には「台風の目」と呼ばれる、風が弱く雲のない部分ができます。
向きを変えて北上すると要注意
台風の進路については図をご覧ください。
発生してしばらくは、台風は太平洋上を西向きに進むことが多く、夏まではそのままフィリピンや中国南部に進むことが多いです。
しかし、7月以降の台風は、北緯25度付近(宮古島から沖縄本島付近)より北に進むと、進路を北から北東に変え、日本列島に接近し、上陸することも多くなります。
特に九月は近畿地方を直撃するようなルートをとることが多く、室戸台風や伊勢湾台風など、過去に大災害を起こした台風も、ほぼすべてが九月に上陸しています。
台風が近づいたら進路に注目を
近年、台風の進路についての予報精度が上がっており、2023年6月26日以降、今までより絞り込んだ予報が出ることになりました。
台風の予報では、風の強さや中心気圧にも注意が必要ですが、特に台風の中心がどこを通るかという点に注目してください。
台風は風、雨とも中心の進路の右側(東側)が強いので、大阪では台風の中心が大阪湾や淡路島を通るコースが最も危険です。
台風への備えは次章で詳しく説明します。
台風を知り備える その2 ― タイムラインを作って備える
台風は、生命・財産を脅かす最も危険な現象の一つですが、かなり細かく予報が発表されます。
自宅で、また農園で、おこりそうな災害を想定し、時系列に沿って作業手順を表にした「タイムライン」を、事前に作っておくことで、慌てることなく台風に対応できます。
タイムラインの作り方を紹介します。
どこでどんな被害が起こるかリストアップ
架空の「さわやか農園」のタイムラインを作ってみましょう。
この農園はハウスと露地畑・水田を持ち、浸水しやすい場所に作業場兼農機具庫があります。
農園の各場所でどんな被害が発生するか、リストアップしてみましょう。
下記は想定される被害例です。
水田・畑 水路からの浸水、畑作物の倒伏
ハウス ハウス内の浸水、強風によるハウスの倒壊・破損
農機具庫 浸水による機械の損傷、電気設備の故障
いつ、何をすればいいか表にする
次に作業の優先度を決めていきます。
被害が出た時、一番打撃を受けるハウスや園芸作物の作業を優先させるといいでしょう。
トラクターが作業に必要なら農機具庫が最後になると思いますが、浸水が心配なら、高価な機械を避難させることも考えてください。
これらを時系列に並べていくと、タイムラインは完成です。別表をご覧ください。
自治体からの情報も参考に
台風の接近が予想される場合には、自治体(府県庁)から技術情報通信が発信されることがあります。
ぜひ、参考にしてください。
まとめ
お天気入門、7月から9月はどうでしたか。
より詳しく知りたい方は、このブログ内にくわしい記事があるので、そちらもご覧ください。
積乱雲については、こちらをご覧ください。
最後までお読みくださりありがとうございました。