農地や芝生だけでなく、金網などにも霜が降りている光景は、積雪の少ない地方(瀬戸内や関東平野など)でも真冬には普通に見られます。
真冬に霜が発生しているうちは、農業への被害は特に発生しません。
しかし、春になってから霜が発生すると、いろいろな農作物に障害が発生します。
霜はなぜ発生するのか、どうして農作物に被害が出るのか、解説します。
なお、具体的な晩霜対策については、こちらをご覧ください。
霜はどのように発生するのか
霜の起きやすい気圧配置
冬から春に向かうと、日本付近では西高東低の冬型気圧配置が徐々に緩んできます。
すると、中国大陸でできた移動性高気圧や東シナ海でできた温帯低気圧が、西から交互にやってきて、天気は周期的に変わるようになります。
このような状況で、日本の上空を移動性高気圧が覆うことがよく起こります。
移動性高気圧に覆われ、昼は暖かく夜は寒いような条件が、晩霜の直接的な原因となります。
下図は、福島県など東北地方が遅霜の被害を受けた2021年4月27日の天気図です。
霜が起きる原因
昼は雲がなく日射があって暖かくなりますが、夜になると上空に雲がないことから放射冷却が起こり温度が下がります。
この時、湿度が高ければ、空気中の水蒸気が水滴となり、霧となって雲の代わりになるので、地表の温度の低下は抑えられます。
しかし、湿度が低いと空気中の水蒸気が凝結する前に、地表付近はどんどん冷えていって冷たい空気が地表付近に滞留します。
すると、地表近くの水蒸気は露となって葉につき、やがて凍るか、あるいは直接凍って地表周辺のものに付着します。
これが私たちが霜と呼んでいるものの正体です。
真冬の霜は怖くない
では、晩霜(おそじも)はなぜ怖いのでしょうか。
その話に入る前に、真冬の霜はなぜ怖くないのかについて、お話しします。
真冬に弱い植物
夏に繁茂する植物(農作物)にとって、真冬の寒さは大敵です。
植物は根から水や養分を吸い上げ、葉から蒸散させることで、水を循環させています。
ところが、氷点下になると、水は凍ってしまうので、植物は水をうまく循環させることができません。
このような植物は、根から葉までの水の輸送がうまくいかず、水分不足で枯れてしまいます。
また、葉などの細胞内で体内の水分が凍り、細胞が破壊され、枯れてしまう場合もあります。
しかし、農業では、こうした植物は冬枯れることを前提に栽培されているので、真冬に霜で枯れても被害とはいいません。
(南九州など温かいところで、霜が11月など早く発生して被害が出ることはあります)
冬に強い植物
しかし、植物によっては、冬をうまくやり過ごして、春になるとすくすく伸びる種類もあります。
落葉樹は冬は葉を落として枯れているように見えますが、春になると新芽が伸び、あるいは花を咲かせ、活発に生育します。
また、常緑樹でも冬はほとんど生育しません(だから年輪ができる)が、生理活性を落としているだけで、死んでいるわけではありません。
ほうれんそうのように、葉菜類の弱そうに見えるものも、体内に糖分を蓄えて浸透圧を上げ、凍りにくくすることで、冬を越しています。
こうした植物では冬を越すための機能が備わっていて、少々の霜ではびくともしません。
以上のことから、真冬に栽培されている農作物は冬に強い種類であり、真冬の霜の害は問題にはならないのです。
なぜ晩霜は被害が出るのか
花や新芽は寒さに弱い
さて、春になると、このようにして冬を越した植物が花を咲かせたり、新芽をのばしたりします。
植物が花を咲かせたり、新芽をのばしたりするには、何℃以上が何日以上といった、一定の温度条件(積算温度といいます)が必要なことが多いので、ある程度暖かい日が定着しないと、植物は反応しません。
ただ、一度植物が伸びようとアクセルを踏めば、今度は気温に関係なく、元の休眠状態に戻ることはありません。
このようにいったん暖かくなって、植物が本格的に生育をはじめてから、急に寒さが襲って霜が発生することを晩霜といいます。
晩霜は咲いたばかりの花や新芽など、やわらかく弱いところに被害を起こします。
すると、花では受精ができなかったり、将来果実になる部分が枯れてしまったりします。
新芽も枯れてしまい、ひどい場合にはその植物全体が枯れてしまうことにつながります。
霜が直接つくことによる被害と、低温で植物体が凍ってしまう被害とがありますが、一緒にして晩霜害といったり、凍霜害といったりします。
晩霜が起きれば、多くの植物が被害を受けますが、農業分野で特に問題になるのは次の2つのパターンです。
茶に対する被害
茶摘みの歌でも有名ですが、お茶は茶の新芽を摘み取って作るもので、八十八夜頃(5月1日前後)一番盛んに摘み取られます。
ですが、「八十八夜の別れ霜」という言葉があるように、この時期に晩霜が襲うと、新茶が減収となるだけでなく、茶樹の伸長に影響が出るなど、大きな打撃を受けます。
落葉果樹に対する被害
落葉果樹とは、冬の間は葉を落として休眠していて、春になると一斉に新芽を伸ばしたり、花をつけたりして成長する果樹の仲間です。
日本で栽培されている果樹のうち、かんきつ類とびわ以外は、ほとんど落葉果樹の範疇に入ります。
晩霜で大きな被害を受けるのは、落葉果樹のうちでも、なし、かき、りんご、ももなどです。
落葉果樹の被害では、ちょうど開花期に霜に合うと、花が不稔(実をつけない)となったり、落花したりして、収量に大きな影響を及ぼします。
また、新梢の先端などに被害を受けると、その年伸びるはずの枝が伸びなくなり、後年にわたって生育に影響を与えることもあります。
まとめ
以上、どのようなことで晩霜が起きるか、晩霜はどのような被害をもたらすかについて説明しました。
晩霜はかなり地域的な現象で、同じ市の中でも、霜のおりやすいところと、そうでないところがあります。
この記事では主として霜のメカニズムを説明しましたが、霜をどう予知するか、霜が降りそうなときにはどのようにすればよいかについては、別稿で改めて説明します。
最後まで読んでいただきありがとうございました。