実技試験は知識の試験と違って、記述や作図の問題が多いので、丸暗記では対応できません。
特に記述は、独特の言い回しなどもあり、すべての人にとって悩ましいことと思います。
ですが、よく見てみると、問われていることは限られています。
私は過去問をやりまくることで、記述問題によく問われるところや、気象予報士試験特有の言葉の使い方(低気圧とトラフが結び付く など)を理解しました。
その際に受験テクニックとして使ったのが、これからお示しする「四列表」です。
気象予報士試験の記述対策としての四列表の作成方法と活用法について、私の体験をもとにお話しします。
なお、勉強を始めてすぐの方には難しい気象用語も出てきますが、そのうちわかるので、焦らずノウハウのところを理解してください。
実技の記述問題とはどんな問題か
四列表に入る前に、実技の記述問題とはどんなものか見てみましょう。
過去問はこちらから入手してください。
たとえば、第57回の実技1の問題では次のようなことが問われています。
(過去問をお持ちの方はあわせてご覧ください)
問1(3-3) エマグラムにおける温暖前線面の高度を10hPa刻みで答えよ。
また、そのように判断した理由のうち、
気温については高度に関する理由を30字以内で述べよ。
風向については高度と温暖前線に関する理由について35字以内で述べよ。
問1(3-4)
(これまでの問いで850hPa面の温暖前線の位置について聞いてあるうえで)
エマグラムの観測地点はは名瀬か、鹿児島か、判断した理由を50字以内で述べよ
問1(3-3)の後半2問、問1(3-4)がいわゆる記述問題です。
これに答えるためには、エマグラムとは何か、どう見るのか、をはじめ、
温暖前線の性質、他の天気図との関係などをすべて理解していないと答えられません。
そのうえ、気温についての高度に関する理由というのはどのようなことを書くか、
風向が高度ともに変化していることをどう表すか、
など、通常の文章では書かない、独自の表現が求められる問題となっています。
気象予報士試験の実技試験が、国語の試験といわれるのも、こうした点を強調したからと思われます。
もちろん、基礎となる知識は当然必要なのですが、これから説明する四列表を使うことで、解答に直結した記述テクニックを身に着けることができます。
また、いくつか決まった表現を覚えておくと、類似問題にも応用が利くというメリットがあります。
四列表はどのレベルの受験生に向いているか
四列表が効果を発揮するのは、ある程度の実力がついてからです。
知識科目の両方合格済み、または片方合格で、実技対策にある程度取り組んでいる方。
あるいは、「当たらずも遠からず、でも言い方が少し違う」回答が自分で書けていると思っている方にはおススメです。
500hPaの正渦度流入域とはなんのこと? とか、水蒸気画像の暗域とはどこのこと? という方は、もう少し基礎固めをするほうが時間を有効に使えます。
四列表の作り方
過去問を解く前の準備
では、さっそく四列表を作ってみましょう。
四列表は、自分で過去問を解いてみて、その解答と模範解答の違いを表にして比較し、どこを直すべきか自分で考えるための表です。
といっても、ただのエクセルの表で、難しい作成技術があるわけではありません。
まず、5列の表を作り、第1列は小さめに、残り4列は問題文や解答文を入れるので、それなりの幅をもって作ってください(私はA4横長にしました)。
1列目は問題番号を入れる欄です(別に何を入れても構いません)。
ここからの4列がこのやり方のポイントなので、四列表と呼んでいます。
2列目には問題文を入れます。
できれば全文を入れたいのですが、長い場合は一部省略もやむを得ません。
その場合も、必ず問いの部分は全部入れるようにします。
3列目は気象業務センターの解答例(以下、「模範解答」という)全文を入れます。
まず準備としてここまでやっておいてください。
4列目はマイアンサーの欄、5列目が3列目と4列目の違いをメモする欄となります。
私は「ポイント」という欄の名前にしました。
私は手入力でやったので、これだけでも結構勉強になりました。
番号 | 問題文 | 模範解答 | マイアンサー | ポイント | ||||
問1 (3-3-1) | 判断した理由のうち、 気温については高度に関する理由を述べよ(30字) | 明確な気温の逆転層があり、前線面はその上端に当たるため。 | ||||||
問1 (3-3-2) | 判断した理由のうち、風向については高度と温暖前線に関する理由を述べよ(35字) | 上空に向かい時計回りに変化しており、その変化が特に大きいため。 | ||||||
問1 (3-4) | 観測地点が名瀬か鹿児島かを判断した理由を述べよ(50字) | 850hPaの温暖前線は名瀬と鹿児島に間に推測され、状態曲線の前線面は850hPaより低いため。 |
過去問を解く
この表を作って、模範解答を忘れたころに、過去問を解いてみます。
もちろん、時間を測ってやっていいのですが、とりあえず時間が過ぎても、記述の解答欄は全部埋めてください。
初見では全く見当違いの答えになることも、私は多かったので、四列表には同じ過去問を解いて2~3回目くらいの解答を使うとよいでしょう。
この解答を4列目に入れます。
5列目がミソ
4列目まで埋めたら、3列目と4列目を見比べてみます。
そこで気づいたことを5列目(ポイント)に記入するのです。
例えば、先ほどの問題です。
温暖前線面の高度を判断した理由のうち、気温については高度に関する理由を30字以内で述べよ。
模範解答では、
明確な気温の逆転層があり、前線面はその上端に当たるため
ところが、マイアンサーでは、
920hPaより下では高度が上がるほど気温も上がる逆転層になっているから
マイアンサーは、温暖前線では前線面の高さまでは高度が上がるほど気温が上がり、前線面より上空では高度が上がるほど、気温が下がるということを言いたかったのですが、字数の関係で前半だけになってます。
で、肝心の「前線面の高度がなぜそこか」の説明には全くなっていません。
模範解答では「明確な気温の逆転層」で気温の説明を終わり、「前線面はその上端に当たる」でその高度が前線面である理由を示しています。
こうした分析をしたのち、5列目のポイント欄に私は、「前線面を判断した理由をきちんと述べる」と入れました。
こう書くと、分析にすごく時間がかかったように思われるかもしれませんが、ポイント欄には思いついたことをとりあえず書けばいいかと思います。
以下、同じような調子で最初の3問を四列表にしたのが、下記で。
マイアンサーはほぼ脚色なしの私の3回目にやったとき(本番1か月前くらい)の解答です。
番号 | 問題文 | 模範解答 | マイアンサー | ポイント | ||||
問1 (3-3-1) | 判断した理由のうち、 気温については高度に関する理由を述べよ(30字) | 明確な気温の逆転層があり、前線面はその上端に当たるため。 | 920hPaより下では高度が上がるほど気温も上がる逆転層になっているから | 前線面を判断した理由をきちんと述べる | ||||
問1 (3-3-2) | 判断した理由のうち、風向については高度と温暖前線に関する理由を述べよ(35字) | 上空に向かい時計回りに変化しており、その変化が特に大きいため。 | 高度が上がると風向が東南東から南西へと時計回りに急変し強い暖気移流となっているから | 「急変」ではなく「大きく変化」とすべき | ||||
問1 (3-4) | 観測地点が名瀬か鹿児島かを判断した理由を述べよ(50字) | 850hPaの温暖前線は名瀬と鹿児島に間に推測され、状態曲線の前線面は850hPaより低いため。 | 850hpaの温暖前線は名瀬と鹿児島の間にあり、状態曲線ではこの前線の北上後で前線面がそれより低い位置にあるから | 「前線の北上後」は不要 |
四列表の使い方
四列表ですきま時間を有効活用
自宅や図書館で時間をとって勉強できる方はいいですが、多くの受験生は仕事を持っていたり、子育て中でなかなかまとまった時間が取れないのではないでしょうか。
私も勤め人ですので、土日以外はまとまった時間は取れませんでした。
特に75分で実施される実技試験の過去問の勉強時間を作るのは難しい。
しかし、四列表を作っておけば、すきま時間に実技の記述の対策ができるのです。
1つの小問が問題、模範解答、自分の解答、解答のポイントと横に並んでいるので、問題の見直しができます。
特に、模範解答と自分の解答、さらにポイントを見比べて、何が抜けているのか、どういう表現がいいのかを検討するといいでしょう。
これをすきま時間にまめにやっておくことで、自分の解答のクセ、模範解答のクセが見えてきます。
次に同じ問題をやれば、かなり模範解答に近い解答が書けるようになります。
また、場合によっては、表を折り曲げて解答以下を伏せ、すきま時間に一問一答式で記述練習をすることもできます(この場合は過去問も用意が必要)。
四列表で頻出問題をチェック
私は50回から57回までの8回分(16大問)で四列表を作りましたが、それを見ているうちに、だんだん傾向が見えてきました。
例えば、衛星画像の読み取りについて、雲の形状や暗域などについて答える問題が7回で11小問出ています。
他に多いのが、低気圧とトラフの関係(6回9問)、強風軸と〇〇の位置関係(5回7問)となっています。
ここで出てくるのが独特の表現です。
「低気圧はトラフの直下にある」、「(雲の形状は)上に凸」「高気圧性の曲率を持つ雲列」など。
頻出問題では決まった言い回しがあり、その対策をしておくことがかなり有効なテクニックになるのではと想像されます。
そこで、四列表の出番です。
四列表を作っておけば、こうした独特の言い回しが自然と覚えられます。
また、列を増やしてキーワードやどの図表を使ったのか(500hPa渦度とか850hPa相当温位とか)を書いておくのもいいでしょう。
例えば、強風軸をきかれるときは、300hPa図、水蒸気画像などが出てくるので、関連性を覚えておく。
前線の動きは850hPa温度図か、相当温位図を用いて答えることが多い、などです。
これらは作図問題とも連動するので、ここで間違うと大きな失点になってしまいます。
逆にここを抑えられれば、他の受験生からの大きなアドバンテージになるのです。
まとめ
私が実技試験の対策として実施した四列表について、御説明しました。
もし、作るのであれば、試験直前ではなく、2か月前ぐらいには作っておきたいですね。
そして、是非すきま時間を有効に使って実技対策を進めてください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。